NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.55 文/矢沢路恵

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美術学校へ通っていた学生時代、美しいコラージュの世界に引き込まれた。蒲田にあった学校からは海に出るのに都合が良く、校外学習で鎌倉の海まで行き、浜辺で漂流物を拾い、箱の中にコラージュし新たな世界観をつくるという授業。先生から参考図書として差し出された図録は、ジョゼフ・コーネルだった。アメリカ、ニューヨークのアーティストで、雑誌の切り抜きや漂流物、様々なものをアッサンブラージュにより全く異なった世界を魅力的に創作し、代表作には箱のコラージュがあった。何でもかんでも組み合わせればいいというわけではなく、彼の作品には標本箱のような凛とした空気や、異国へはじめて足を踏み入れた時のような、自分の中で密かに心踊る静かな高揚感、愛らしさと青いクール感が融合している美しい世界だった。

 

図録の裏には、川村記念美術館と書いてあった。あれから25年以上、四半世紀が経った。いまこの時に、同じ川村記念美術館でジョゼフ・コーネル展を開催している事を知った。6月の梅雨入り前の晴れた日は、母の命日にあたる。毎年、暑くなる前の爽やかな風が吹き抜けるこの日は、千葉にある梨の畑に囲まれた地に、墓参りに行く。佐倉にある川村記念美術館までさほど遠くない事を知り、少し足をのばして小旅行気分に浸る。

 

佐倉駅より川村記念美術館まで、無料送迎バスで20分程。途中に窓から見える風景は、駅前からの住宅街を抜け、段々と野菜畑から緑いっぱいの田園風景に変わっていく。森の中へ入っていく道は、避暑地の奥へと向かう秘密の庭のようだった。バスを降りて広大な敷地の庭園を抜け、ヨーロッパの小さなお城のような美術館が見えてきた。目の前には湾を描く様に広がった長い池に噴水の音が流れ、白鳥の親子が静かに泳いでいた。ここに訪れた誰もが素敵だと思う、森林の中の湖畔に佇む美術館だった。

 

館内には小さなステンドグラス越しに外からの光が差し込み、天井には大きな牡丹の花のような照明がヒダを重ね、穏やかな光の陰影が美しく照らす。螺旋階段を登り、2階の奥にはかつて学生時代、図録で見たコーネルの作品が並んでいた。部屋を進むと正面に、あの頃ずっと想いを寄せていた箱のコラージュが透明のケースに入っていた。あの歳の私が見ていた写真の実物が、いまここにある。時を越えて見えた本物の光景だった。歩く音すら気にしなくてはならないくらい沈黙に包まれた美術館の室内で、心臓の音が聞こえてしまいそうな気がするほどの緊張感を味わった。自分の頭の記憶の中に覚えいられる極限まで、箱の作品をみつめた。

 

美術館を出てからも興奮醒めやらぬ私は、コーネルの箱の中に私の好きなもの全てが詰まっているのだと思った。砂浜で拾った貝殻、割れたアンティークのグラス、天体、漂流して辿り着いた流木、木片、雑誌の切り抜き、古い木の箱、金属の輪っか、網の剥がれた端、小さな錆びた釘。誰かにとっては、ただのゴミかと思われてしまいそうなものが、ずっと宝物だった。コラージュ作品の中によく登場する、オランダの白い煙草のパイプがあり、それはオランダ系統の父にあてた尊敬の念からだった。また、母や弟の面倒をみながら暮らしていたコーネルは、ニューヨークからほとんど出た事が無かったという。その空想の旅に迷い込んだ世界に誘われた。

 

丸い箱の中、青く着色した砂の合間にいくつものコラージュした文字が揺れる。青は真実や誠実。コラージュした文字は階級への批判。誠実の青い砂の中で揺れる文字に、コーネルは何を思ったか。美しいコラージュの世界に、コーネルの信念を貫く強さを知った。

 

 

●写真は、コーヒーゼリー・バニラアイス

今回の展示のパンフレットにもなった、コラージュ作品。バレリーナと星屑の宇宙。白と黒のシンプルな作品だが、ずぅーっとみていたくなるような美しさ。あの学生時代に先生から「コーネルは美しい」と教えられたコラージュが、いまこの歳になってやっとわかった。別の違う世界をつなぎ合わせて、新たな世界観をつくる。コーネルの内に秘めた強さと清々しさを想った。

あらかじめ水に溶かしふやかしておいた板ゼラチンと、濃いめに淹れた珈琲を温かいうちに混ぜ合わせる。容器に入れ粗熱がとれたら冷蔵庫で冷やし固める。ガラスの器に盛り、上にバニラアイスをのせる。別世界のものをアッサンブラージュさせた、シンプルで誰しもが馴染みのあるスイーツ。

 

 

矢沢路恵

都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

山食堂  やましょくどう yamashokudo

〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A    電話・FAX 03-6240-3953

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Phone Number:#81 3-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程

深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目

夜=17時半〜21時半(ご予約優先)不定休

Dinner 5:30pm to 9:00pm *Prioritygiven to reservation *No fixed holidays

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