NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.59 文/矢沢路恵

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無花果の儚さは、繊細かつ魅惑的である。その儚さが有るが故に、組み合わせる食材もまた儚い。

 

以前、茄子と無花果のペーストを甲州の白ワインにあわせたのを食した事があった。和食ならではの、なかなか乙な組み合わせだった。無花果のたまにツンと刺激する果実ならではの独特な旨味、ざらりとした舌触りと何と言っても風味豊かで柔らかな食感は、誰もを虜にする味覚である。

 

昨年7月西日本豪雨災害にて、愛媛から柑橘や果実をいつも送っていただいている、ぽんぽこらんどの古崎さんの居る地域が心配になり、慌ててペットボトルの水を数ケース送った。古崎さんは人間として素晴らしい方で、全国から沢山の水が個人宛に届き、支援物資の水が入った箱で部屋が埋まってしまい、暑い中それを被災された方々に届けるのも人の手が足りない状況だったという。どうして私がその時ボランティアに行けなかったのだろうと何度も後悔することになり、支援物資を大量に個人宛に送ってしまうのもどうなのだろうと今回ばかりは考えさせられた。

 

季節は秋になり、9月の天候が良く雨が降らない為、無花果の出来が良くて沢山採れてしまい、もし良かったら山食堂さんで使いませんかと古崎さんから連絡があった。無農薬の島無花果で形が潰れてしまうのを防ぐため、良い形のまま収穫して冷凍保存したものを送ってくれるのだという。

 

何という好都合、生の状態を買ってすぐに使わなければならないという原則が無い。好きなときに好きな分だけ解凍して使え、冷凍のまま煮れば綺麗にその形のままをとどめ、コンポートなどにしてデザートにも使える。さらに無農薬で皮も柔らかく、皮をむかず丸ごと気にせず煮て、ジャムや赤ワイン煮にするとチーズの付け合わせや焼菓子に混ぜたり、和食では天婦羅や白和えにしたりと幅広く活躍する食材だった。

 

7月に水を大量に送ってしまった後ろめたさもあり、注文したら古崎さんと地域の農家さんへの労いにもなると思い、冷凍庫に入るか入らないかわからないけど即答で、大量の冷凍無農薬島無花果を注文した。儚い無花果の味を消さないよう、シャーベットの試作をし始めたが無花果の良さがあまり出ないどころか逆に消えてしまう。他の果実にもありがちな事だが、そのまま食べるのがいちばん美味い。家で食べるのだったら解凍してヨーグルトやサラダにのせてもいいのかもしれない。形や色がちょっと悪くても、味さえ良ければ特に問題はない。しかし、飲食店であれば素材を活かし、見た目にも味も美味しく無ければならない。

 

どうしたもんだろうといろいろ試作するも、感動的な忘れられない味には程遠かった。しかも大量にある冷凍無花果。ある時、以前お世話になったフレンチレストランでいただいたキャラメルアイスの味を思い出した。キャラメルの焦がした香ばしさを無花果とあわせたら、思いがけず魅惑のキャラメルアイスに変身した。儚い味はいつしか自分の常識の範囲を超え、情熱的なデザートの誕生となった。

 

山食堂のチャリティバザーにて、昨年の春からお声がけいただいていた方が居た。同じ通りの商店街の先にある、クラフトチョコレートのお店アーティチョークの宮下さん。僕にも何か出来ることはありますか?とお話しいただいた時には涙が出るほど嬉しかった。この愛媛の島無花果でチャリティ-チョコレートをつくっていただく事になり、またこれも新たな課題を課せられる食材となった。無花果の儚さ故に、宮下さんがいままでチョコレートに合わせて来なかった食材だったのだ。儚い無花果の味が、チョコレートに合わせる事により無花果の味が消えてしまう。チョコレートに合わせようと意識して無花果を濃くしても、無花果の良さが消えてしまいチョコレートと合わない。

 

完全に宮下さんを悩ませる事となってしまい、何度も何度も試作をさせて手を煩わせてしまった。ある日、これは可能性がみえてきたという試作が出来たとの事で、お店に伺った。なんと、山食堂で提供している「無花果の胡麻あん」からヒントを得たというものだった。感激のあまり全身が震えた。また、チョコレートの中に入っている無花果の姿に驚いた。ピンク色では無く、透き通った魅惑的なオレンジ色の島無花果のコンフィチュール。無花果の粒々感もしっかりと残っており、白胡麻の風味とチョコレートの組み合わせも新境地の発見だった。完成した山食堂チャリティ-ボンボンショコラの売り上げは、被災地へ全額寄付という宮下さんの男気溢れる粋な仕事に、感謝してもしきれない。

 

料理はいつも、誰かと繋がっている。誰かの想いで出来ているのだと。儚い味は、いつしか新しく知らない世界へと道が出来た。人の心を動かすのは、真実でしか無いのだと確信した。どうしたって最後には正しい事しか残らない。人の心を映し出す様な、魅惑のショコラに心酔した。

 

 

 

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・写真は、島無花果の胡麻あん

なんて美味なのだろうと、舌が驚く。絶品の島無花果。柔らかく、誰もが思うあの無花果の味。胡麻の優しさに包まれながら、風味豊かなあの味を毎年想い浮かべる。この味をボンボンショコラに閉じ込めた、宮下さんの職人仕事に脱帽である。

無花果を解凍し、皮のついたまま溶け出した汁ごと鍋に入れ白ワイン、砂糖・塩を少々、生姜の皮を入れ火にかける。沸騰したら灰汁をとり、5分ほど煮る。氷水で冷まし、適当な大きさに切り器に盛る。無花果の煮汁と白練胡麻と醤油少々をあわせた胡麻だれを上からかける。煎り白胡麻とおろし生姜を添える。

撮影:(C)Maciej Komorowski

 

 

 

矢沢路恵

都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

山食堂  やましょくどう yamashokudo

〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A    電話・FAX 03-6240-3953

1A SAKURA Bldg,2-11-6 MIYOSHI,KOTO,Tokyo,Japan 135-0022

Phone Number:#81 3-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程

深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目

夜=17時半〜21時半(ご予約優先)不定休

Dinner 5:30pm to 9:00pm *Prioritygiven to reservation *No fixed holidays

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