NIWA MAGAZINE

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食と人 vol.60 文/矢沢路恵 

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最終話
壁についた傷が、何かの目印になる事だってある。店のテーブルの配置に、あの壁の目印が役に立っている。季節毎に店に射し込む光の影が、壁についた傷の位置にあたる時間をゆっくりと変えながら、新しいテーブルの配置を整え、冬のはじまりを想う。

 

暑い夏が終わり秋が過ぎ、集合住宅街の外壁塗装をきっかけに部屋の荷物を整理していたら、母が編んだ青色のニットが見つかった。色も形も私にぴったりで母が生きていたらと、このニットを着ていた姿を想像する。あの頃の母と同じ歳になった。何だかんだで気に入って、制服の様に私にちゃんとおさまる。

 

11月生まれの私は、毎年この頃になると秋の終わりか冬の始まりなのかを考える。紅葉が深まり冬が訪れ、お気に入りのぬくぬく帽子や手袋やマフラーを引っ張り出して、はぁ〜っと吐いた息の白さに、凛とした空気の冷たさに、清らかな気持ちになる。いろいろな事を四季を通して、身体の全てが覚えている。

 

この先の事、いつかもっと時間が経ち、もっと大人になったときの事。あまり感じたことが無いけれども、老後を語るにはまだ早い様に思う。それまでの時間、私は何を目標にして生きていくのか。

 

ふと、夢について考える。まだ夢の始まりなのか夢の途中なのか、おばあちゃんになっても現場に立って居たいと思うだけだ。地方へ行って、たまたま入った食堂でおばあちゃんが店に立ち給仕していたら、間違い無くそのおばあちゃんが私の憧れ。私の夢であり、目標がそこにある。

 

前掛けの紐をきゅっと締め、今宵も店に立つ。

 

四季折々の料理と酒が、私の肉となり血となる。テーブルを囲んだお客さんをみている時がいちばんたのしい。時が経ち、いまでも店に立っているおばあちゃんになった自分がいちばん愛おしい。

 

最後に
全60話を通して、食と人という観点から自分の半生を綴った文章をいつもたのしみにしていてくださった皆さまと、この機会をくださった小川敦子さんに感謝申し上げます。5年と9ヶ月と長きにわたり、ありがとうございました。また、お会い出来る日まで。

 

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写真は、煮凝り (C)Maciej Komorowski

凝縮した魚の旨味と、つるりとした食感。頭で想像している以上に旨味が濃い。透き通った美しい色は生きていることの輝きを、凝縮した旨味は人生において頭で想像している以上の内容の濃さを物語る。食と人と、自分の生き方と。

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魚のアラに塩をして1時間ほど置き、霜降して洗う。水、酒、昆布と鍋に入れ火にかけ沸いたらアクをとり中火の弱火で煮込み、旨みが出たら濾す。骨から身をはずし、汁に戻して季節の野菜と軽く煮て味を整え、流し缶で冷やし固める。

 

 

矢沢路恵

 

都内数カ所の飲食店でサービスの仕事に従事した後、2014年より料理人であるパートナーの山谷知生とともに、山食堂を前店主より受け継ぐ。飲食店は生産者と消費者をつなぐ役割という考えで、全国各地に生産者をめぐる旅をしながら、日本の地域に伝わる特産を探索する。

 

山食堂  やましょくどう yamashokudo

〒135-0022 東京都江東区三好2-11-6桜ビル1A    電話・FAX 03-6240-3953

1A SAKURA Bldg,2-11-6 MIYOSHI,KOTO,Tokyo,Japan 135-0022

Phone Number:#81 3-6240-3953

都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅下車 徒歩3分程

深川江戸資料館通り沿い・深川江戸資料館斜め向かい側交差点より五軒目

夜=17時半〜21時半(ご予約優先)不定休

Dinner 5:30pm to 9:00pm *Prioritygiven to reservation *No fixed holidays

https://www.facebook.com/yamashokudo/