NIWA MAGAZINE

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色を引き出す。表現する。vol.1 文/樋野由紀子

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vol.1  「糸と色」

 

真っ白な糸を、植物を煮出して作った染液に浸す。草木染めの作業のうちで最も息をのむ瞬間、どんな色になるのだろう…。想像に期待と不安をふくらませる。

 

草木染めはこちら側の意図はほとんど反映されない。調合して思い通りの色が出せる化学染料とは反対で、その植物が持っている“色”次第なのだ。生えていた場所、気候、時期、同じ場所でも年が違えばまた違い、必ずこの色が出せるという保障はない。私が草木染めに強く惹かれるのはそこにある。染めをする時によってたまたまめぐり合える色。その偶然同士の糸の色合わせで織り上げていく。なんとも他人任せな事だと可笑しくもなるのだが、その糸を眺め、もう二度と合わせる事がないかもしれない組み合わせを楽しむ。

 

6月中旬に実家の庭の枇杷の葉と枝を採取した。隣の家との境目にある枇杷の木は鳥が種を落としていったのか、十数年前に勝手にそこに生え、年々大きくなって枝が伸び、隣の敷地に進入してしまいそうなので、たまに切っている。その切った枇杷の枝と葉で絹を染めた。主に樹皮に多く染料分が含まれているので、本来なら太い幹の皮を削ぎ、染料として使う。でも、むやみに樹を傷つけるのは躊躇してしまうので、私は剪定などで出た枝や葉を集め、それを使っている。

 

2年くらい前にも同じ木の葉と枝で絹を染めたのだけど、そのときと色の感じが全く違っていた。色づき始めた若い枇杷の実の色、薄いオレンジ…ピンクに近い肌色にも見える、若々しくかわいい色だった。

 

前回染めたときは、いつ頃の時期に採取したのかはっきり憶えていないが、本当なら春先の芽吹きの頃、これから花を咲かせ、実をつけるぞという勢いのある木を頂戴する。今年は、もう実が色をつけ、鳥がついばみにやってきている頃、染めるには完全に時期外れで、植物自身が、その色を実に全てを送りやってしまった後の、ひと仕事終えたといってもいい状態の頃だ。

 

でも、染め上がった糸を見て。絹の鈍い光沢にオレンジともピンクともいい難い、落ち着きを放った大人の雰囲気を醸し出す渋さがあり、なんとも美しく、創作意欲をかき立てられる。

 

この枇杷の木は、私が染織を始めた頃に生えてきて、ある年から何年かに一度枝を切って染料として使っている。いつも私の傍らにあって私を助けてくれる。そんな木が出してくれる色は、たぶんどんな色でも私にとっては美しく輝きを放っているに違いない。

 

 

樋野由紀子

草木染め染色家・手織り作家

倉敷本染手織研究所で紡ぎ、染め、織りを学んだ後、作家活動を始める。今現在は、出雲の自宅に工房を構えながら、作品の製作を行っている。

樋野由紀子 facebook

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