NIWA MAGAZINE

  1. exnibition
  2. trip

色を引き出す。表現する。vol.3 文/樋野由紀子

IMG_0341

 

vol.3   さくらんぼの木

 

十六島(うっぷるい)という土地に移り住んで1年半が過ぎた。自然が豊かなのは変わらないのだが、家の中から海や山がすぐそこに見え、以前よりも増して自然を体感している気がしている。

 

家の庭に一本のさくらんぼの木が植わっていた。120〜130センチくらいの小さめの木、花は咲くのだけれど実はつけた事がないらしい。少し虫にも喰われていて、義父が切ってしまおうと言い出した。小さな木なのであっという間に根元から切り、根っこも掘りおこした。それを近くの畑に持って行って捨てると言うので、とっさに染めてみようと思い立ち、もらう事にした。

 

細かく枝を切って、幹もできるだけ短く切って、鍋に軽く一杯の染材が用意できた。これまでさくらんぼの木では染めた事がない。桜染めもした事がないのだが、染まった糸や布はどこかで見た事があり、桜の花びらのような淡いピンクを想像した。

 

鍋を火にかけ、枝や幹を煮出す。だんだん液に色がつく、一時間後には赤味がかった茶色になってきて、ほのかに甘い香りが漂ってきた。この時点では何色になるのか分からないが、赤味がかった液だったので、やはり桜染めのようなピンクになるのではと淡い期待を持った。

 

ストール用の絹糸を染める事にした。用意のできた染液に白い糸を浸す。まずはベージュ。そこから何回か糸をくり、糸に徐々に色が入っていくのを確かめる。この段階では薄茶色。

 

翌日、媒染をする。みょうばんを溶いた液に一晩置いた薄茶色の糸を浸す。その時に大まかな色の方向が見えてくる。黄色…?意外だった。花の色は白に近い淡いピンク。薄かったり、渋かったり色々でも、ピンクっぽくなると思い込んでいた。染め上がった糸を目に、分からないものだな、さくらんぼの実だって赤なのにと思った瞬間、果肉の色が頭をよぎった。

「あっ、果肉の色」

まさにその黄色だった。暖色系の美味しそうな果物の黄色。

 

実をつけない木だったけれど、もしかしたら実をつける準備はしていたのかもしれないという気がしてきた。何かの原因で実をつける事ができなかったのだろうと思うと、切なさが込み上げてきた。

 

こちらの勝手な思いだが、糸に実の色を映し、形にする事で、そのさくらんぼの木がそこに存在していた事と、自分がこちらに移り住んで初めてこの家の植物を使って染めをしたという思いを布に織り上げようと思った。そして、木の色を戴いた後は畑へ。土へ返り、また次の植物へと繋いでくれる。

 

樋野由紀子

草木染め染色家・手織り作家

倉敷本染手織研究所で紡ぎ、染め、織りを学んだ後、作家活動を始める。今現在は、出雲の自宅に工房を構えながら、作品の製作を行っている。

 

樋野由紀子 facebook

https://www.facebook.com/pages/草木染手織-樋野由紀子/823523594392369