NIWA MAGAZINE

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色を引き出す。表現する。vol.4 文/樋野由紀子

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vol.4    栗のイガ

 

秋といえば、栗。山に行けばいたる所で栗のイガがころがっているのを見かける。

 

以前、山の上にある牧場に栗のイガをもらいに行ったことがある。広大な土地に羊や山羊が放牧されていて、そこに栗の木が植わっていた。何もさえぎるものはない、お日さまの光をサンサンと浴び、土は動物達のおかげで肥えている。そんな自然の恩恵を受けた大きくどんと存在感のある栗の木が山の斜面にポツン、ポツンと立っていた。

 

秋の晴れた日を選び、ちょっとした行楽気分で出かける。山の上の澄みきった空気と心地よい風。目には幾重にも広がる山々の濃淡、青い空。なんと気持ちのよい場所だろうと思いながら、カゴと火ばさみを片手に夢中で栗イガ拾いをする。私にとって栗イガ拾いは栗拾いと同じくらいに楽しいと感じる。たくさん栗のイガを頂いて、家に持ち帰る。栗は?と言いたげな母のキョトンとした顔。染めに使うよと言うと、納得顔。

 

鍋にぎゅうぎゅうに栗イガを押し込み、ひたひたに水を入れて煮出す。案外と早く色が滲み出てくる。30分も煮るとコーヒーのようなこげ茶色の染液となってきた。どこか甘く、それでいて香ばしい匂いが立ち込める。

 

小1時間ほど煮出し、しばらく放置、その後液を濾す。染めがいのありそうな黒とも見える濃い色。そこに絹糸を浸す。たちまち白い糸がこげ茶色の液を吸い上げていく。ぐつぐつと糸を煮、何度も繰りながら色のつき具合を確かめる。

 

ミョウバン媒染で黄土色に変化していった。栗の実と殻の中間の色だろうか、実ほど明るい黄色ではないけれど、殻ほどダークな感じもしない。鉄媒染もしてみる。こちらはよく見れば茶色の気配を感じるが、ほとんど黒に近い色になった。同じ栗のイガからのコントラストが美しい。媒染によって全く表情の違う糸になる。その植物のどの部分の色を映し出してくれるのか、染め上がった糸を見て、毎回答え合わせをするかのように、そももののあった姿を思い返す。

 

季節には季節の染材があり、生で使うもの、乾燥させて使うもの様々。この季節だからこうしようとか、今この植物がたくさんあるからとか、また、家族や友人、近所の人たちから知らされたり、自然から教えられたり…染めをしていると四季を強く感じる。

 

都会にいた頃はあまりそういう事を感じる事が無かった。季節に左右されない生活だったのかもしれない。都会への憧れと自然への憧れ。どちらも自分の中にあって、どちらを選ぶかは自分次第。ただ、自分が今ここにいる現実を受け入れ、感謝し、その中で精一杯生きたいと思った。植物のように。

 

樋野由紀子

草木染め染色家・手織り作家

倉敷本染手織研究所で紡ぎ、染め、織りを学んだ後、作家活動を始める。今現在は、出雲の自宅に工房を構えながら、作品の製作を行っている。

 

樋野由紀子 facebook

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