NIWA MAGAZINE

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色を引き出す。表現する。vol.5 文/樋野由紀子

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vol.5  やまもも

 

ある日の小雨の降っていた夕暮れ時、車を走らせながら空を見る。一面、雨雲。そのグレーが濃い所もあれば、少し明るい所もあり、雨雲の濃淡が時間と共に面白く変化していくのがよくわかった。山陰は日照時間が少なく、空に雲がある日が特に多い。雨も多く、急に天候が変わる事も珍しくなく、空は常に雲が流れている。

 

その雨雲の多色なグレーを見ながら、やまもものグレーに似ていると気づいた。この日のどんよりとした空は、一雨一雨ごとに冬に近づきながら、まだ暖かさを残した黄色がかった空に見えた。

 

グレーが出る植物はたくさんある。ただどれも、微妙に違っていて、やまももでは鉄媒染すると黄味を帯びたグレーになる。やまももは、実家に大きな木がニ本あり、毎年剪定した枝をとっておいてもらう。11年前に染織をするために出雲に帰り、身近な植物で染めた一番最初の染材がやまももだった。

 

剪定した枝を前に初めて一人での染めの作業を開始する。まず枝を細かく切るところから。少し緊張気味に黙々と枝を切って、鍋いっぱいの染材を用意する。その後お湯を沸かし枝を鍋に入れる。段取りも要領も掴めず、習った工程をノートを見ながら一つ一つ進めていく。

 

今では慣れてしまったものだが、大きなコンロや鍋を扱うだけでもあたふたして、大丈夫なのか?と心の中で何度も呟いたりして。誰かと確認しながらできない心細さがどこか懐かしい。

 

そして、染めたものは木綿。精練した後に、木綿は染まりつきが悪いので豆汁処理をする。大豆のタンパク質を糸に吸着させると濃色が得られるので、そこまでの処理をして染める日を待っていた。鍋がぐつぐつといい、液にだんだんと色がつき始め、それに比例して気持ちが高鳴ってくるのがわかった。

 

30分くらい煮出して染液を作る。濃いお茶のような黄色く濁った液に木綿の白い糸をゆっくり入れる。どうしてたっけ…。研究所で六人で染めをした時の記憶を辿る。何度か染めをしたはずなのに一貫して一人でした事がなかったため手が覚えているはずもなく、ノートと記憶と、頭の中は気忙しく、かなり疲れてしまった。それでも工程を進めるうちに糸に徐々に色が着くと夢中になり、媒染もミョウバンと鉄でしてみた。ミョウバンはみるみる黄色がはっきりしてきて、山吹色といえようか、渋味のある落ち着いた黄色になった。次は鉄媒染、黒味が出てきて、媒染液は真っ黒に、糸はグレーになった。何度か染めと媒染を繰り返し、その後乾かす。染まった糸を前に一人でできた達成感に心を震わせたのを覚えている。

 

そこが私の染めの原点なのかもしれない。いつもは捨ててしまっていった剪定くずや草や木の実だったり、身近なものから色を頂き、その色を通して自然の風景の色や匂い、感触を投影し、作品に込める。

 

だだ、始めた頃はそんな事を思う余裕はなかった。年々作業を重ね、冷静に自分の仕事を見つめ、何がしたいか、何を感じているのか、今頃やっと少し分かり始めてきた様に思う。そして、これから先まだまだ経験を積み、もっと深く草木と対話できるように染めをしていきたいと思った。

 

樋野由紀子

草木染め染色家・手織り作家

倉敷本染手織研究所で紡ぎ、染め、織りを学んだ後、作家活動を始める。今現在は、出雲の自宅に工房を構えながら、作品の製作を行っている。

 

樋野由紀子 facebook

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