NIWA MAGAZINE

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紡ぎ、繋ぐ。 〜 Interview:PONNALET 江波戸玲子さん

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PONNALET 江波戸玲子さんに聴く、着物のお話。

 

 

14年前、目にしたラオスの織物。

受け継がれてきた、素朴な織。

何とも言えない、テクスチャーと

その布が醸し出す、温かみ。

「これを着物に仕立てる」

そう、決心したとき、PONNALETがスタートした。

 

糸を紡ぎ、草木で染めて、織る。

ラオスやカンボジアの地では、

古くから、布の仕事は、主に女性の仕事とされてきた。

そのやり方は、代々、親から子、そして、孫へと

受け継がれ、ほとんどの女性は手織りの技を身につける。

葛、絹、綿。その土地で育まれた素材を使い、糸にする。

暮らしの中で育まれてきた、手仕事。

女性たちの手のひらの中から、

ありのまま、素のままに、

美しいものが生まれ来る。

紡ぎ、繋がれていく。

 

着物や帯に仕立てるとき、

布を無駄に切ることはしない。

着物も、ずっと永く使えるものである。

だからこそ、この温かく、尊い、手仕事の布地を

江波戸さんは、着物に仕立てることを選んだ。

 

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ラオスやカンボジアの地域は、度重なる内戦の影響が色濃く残り、NGOの活動も盛んに行われていたという。「当時、私はNGOの仕事に興味があって。寄付ではない方法で、地域に貢献できることを探っていた」。地方の貧困家庭の女性たちの自立支援を行う、ホワイホン職業訓練センター(HoueyHong Vocational Training Center for Women)では、村の女性たちが住み込みで、染色や織りの高い技術を身に付けている。江波戸さんが、初めて目にして、惚れ込んだという布地も、この工房で作られていたもの。

 

 

「どんな環境で、布が作られているのか。この目で確かめたくなって、すぐにラオスの工房に行ったの。工房のみんなが楽しそうに作業をしていて。これなら、一緒に何か出来るって思ったのよ」。そうして、‘織り手’たちとのモノづくりが始まった。

 

 

ラオス、カンボジアのいくつかの工房で織られた布地は、日本の仕立屋へ。おしゃれな普段着の着物と帯に生まれ変わる。様々な織や色の生地の組み合わせを自身で考え、仕立てを依頼する。「帯の裏側に、ビビットな色の生地を持ってきたり。帯を巻いたとき、ちらっとあでやかな色が見えると、アクセントになっていいでしょう」と、とことんセンスのいいこの人は、布の美しさをどう引き出し、引き立てるかを、常に考えている。その色彩の組み合わせは絶妙で、どんな布も「粋な」着物になってしまう。パッチワークのように、布地を繋ぎあわせた半幅の帯は、とてもグラフィカル。デザイン好きが、ファンに多いというのも、うなずける。

 

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江波戸さんは、着付け教室も行っている。「より美しく、より知的な女性を目指す」という、この人らしい、清らかで気持ちのいい教室。私は、都内のギャラリーで開催されている教室に同行させてもらった。30代、40代の女性たち。最近、この世代の女性が教室に多く通うようになったという。観るもの、愉しむことが、徐々に洗練されて、自分らしい美しさを追求し始める。そんな女性が、今、とても増えているようだ。

 

 

「襦袢が極まると、着物が綺麗に着られるようになる」。一番下のベースが大切で、それが全体のシルエットを作る。つまりは、全体の着こなしに響いてくる、ということ。そして、そのベースをしっかりと作るには、「お仕度が何よりも大事」。途中で、帯がない、紐がないと慌てていると、シルエットが崩れてしまう。着る順番に着物や帯を重ね、紐は丁寧に巻き、整えておく。お仕度は、それだけで美しい佇まいとなる。

 

 

背縫いが、着物の中心軸。軸がまっすぐに通っているか、姿見で常に、後ろ姿を確認。布を次々と重ねるように、整えながら、それぞれの「着物」が仕上がっていく。最後に、帯をきゅっと締めて、完成。女性らしい身のこなし、所作、真っすぐな姿勢。女性としての本能的な強さ、芯の強さようなもの。着物を身に着けることにより、その人らしい‘本来の美しさ’が引き出される。

 

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「着物は、見た目の美しさだけで考えられることも多いけれど、大事なのは、内面的な美しさ。綺麗な姿勢から、健やかな心が生まれる。迷わない。ぶれない。そんな風に、変わってくるものよ」。‘衣’を纏うとは、着飾ることではなく、内面の美しさを輝かせるためにある、ということなのだろう。

 

 

 

着物のテクスチャーを左右する、糸。「糸が何よりも大切」なのだという。

「手紬の糸と機械紡ぎの糸では、触ったとき、全然違う。もう、すぐに分かるのよ。以前は、手紬の糸を使うことが、ラオスやカンボジアでも当たり前だった。でも、最近は、糸を指定しないと、機械で紡がれた糸になってしまう。糸を紡ぐことの出来る人が、確実に減っている」。ラオスもカンボジアも、急激に経済が発展して、暮らしも変わった。時間も手間もかかる手仕事よりも、もっと早くお金になる仕事が、今ではたくさんある。悲しいけれど、それが、現実だ。

 

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「もし、糸を紡げる人がいなくなってしまったら、作ることはできなくなる。そうなったときは、もう止めるしかない。そう思っています」と、江波戸さんは、きっぱりと語る。もともと、ラオスやカンボジア地域の生活が豊かになるようにと、始めたこと。豊かになることやその方法が、間違っているとか正しいとか、決めつけることは、誰にもできない。それは、自分たちの考えを押し付けることになってしまうから。

 

 

「今、日本で手仕事が改めて見直されているように、もしかしたら、将来的に、‘内側’からの変化はあるかもしれない」。そう、可能性はゼロではない。お金があれば、なんでも手に入る。豊かになると、つい効率ばかりを追い求めがちではあるけれど、古いものや手仕事の美しいものにちゃんと、価値を見出す人もいる。日本がそうであったように。この先、ラオスやカンボジアの感度のいいクリエイターたちが、本質的な美しさに深く反応し、動き出すときが来るかもしれないのだ。内側から、沸き上がる動き。そこからが、本当の‘はじまり’なのだから。

 

 

 

美しいものには、美しい心が宿る。

手のひらから生まれ来る「糸の仕事」は

本当にかけがえのないもの。

きっと、ありのまま、素のままに

紡ぎ、繋がれていくのだろう。

 

 

取材・文 小川敦子

 

江波戸さん

江波戸玲子 PONNALET主宰

ラオス・カンボジアの手織り布とオリジナル着尺、帯、小物などを、葉山のアトリエ「HOUSE1891」「PONNALET葉山の家」を中心に、日本全国のギャラリーやイベントにて展示・販売。日々の暮らしの中で蚕を育て、糸を紡ぎ、草木で染める。そしてゆっくりと丁寧に織りあげてゆくラオスの女性たち。一度は途絶えそうになった絣の技を受け継ぎ、力強く生きているカンボジアの人々。そんな織り手たちとの繋がりを大切にしている。

 http://www.ponnalet.com/index.html

○画像提供:PONNALET